万能綰一心事
「生死去来 棚頭傀儡、一線断時 落落磊磊」
是は、生死に輪廻する人間の有様をたとへ也。
棚(山車)の作り物のあやつり、色々に見ゆれ共、まことに動く物にあらず。
あやつりたる糸のわざ也。此糸切れん時は落ち崩れなんとの心也。
申楽も、色々の物まねは作り物なり。これを持つ心はなり。
此心をば、人に見ゆべからず。もし見えば、あやつりの糸の見えんがごとし。
返々、心を糸にして、人に知らせずして、万能を綰ぐべし。如此ならば、能の命あるべし。
惣じて、即座に限るべからず。日々夜々、行住座臥にこの心を忘れずして、
定心に綰ぐべし。かように油断なく工夫せば、能いや増しになるべし。
「生と死が去ってまた来る、吊った操り人形は、その糸を切るやいなや、崩れ落ちる」
輪廻転生、操り人形は、線が切れたら崩れ落ちる。
猿楽(能)は、作り物、模倣であり、その糸を見せてはいけない。
心を糸として、人にしらせず、綰(わが)ねれば、能の命がある。
行住座臥、この心を忘れず、油断せず工夫すれば、能はさらに向上する。
(世阿弥『花鏡』)
模倣者
上手な人の話し方をマネて、御注意を受けたことがあった。
私は評価が高い人を模倣することは、まねぶ、学ぶことだから正しいことだと思っていた。
それは、私の個性ではなかった、私らしくないことだった。
自然にするようにとあった。
反省
私は、私らしく自然にすることを蔑ろにしていたことに気がつかなかった。
評価にこだわり、糸に心が通じていなかった。
無心にこだわり、落落磊磊(らくらくらいらい)ではなかった。
欲の産物であった。
四分
「日々夜々、行住座臥にこの心を忘れずして、定心に綰ぐべし。」
行住坐臥、儚い傀儡という己を動かしている糸、心に気づき続ける。
それ、証自証分か?