楳図かずおさんが亡くなりました。
ご冥福をお祈りいたします。
ご冥福をお祈りいたします。
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歯医者さん
小さいころ、こんな雨の日には歯医者さんへ行っていた。
神社の前、医大の脇にある歯医者さんで、木枠のすりガラスに医院名がある真鍮の把手がある両開きの扉を開け、
急で暗い階段を上がっていくと左手に畳敷きの待合室があった。
低い座卓がある部屋のなかも明るくなかった。
待合室には、ホルマリン・クレゾールのいわいゆる歯医者さんの湿った匂いがした。
診療室から低く唸るエンジンの音が聞こえてくる。当時は、エアタービンのキュ~ンという音ではなかった。低く唸るのは、ベルトドライブでモーターエンジン(たぶん、エメスコあたり)からプーリーをはさんで四つの関節ごとに方向を変えて回していたからだ。ハンドピースを動かすとプーリー間でベルトがたわみ音が変化して唸りだす。
ガラガラと小さなレールの木枠の窓を少し開けると医大病院の裏手の無彩色に雨に濡れた陰鬱な鈍い茶色のレンガの壁、さびた配管、冷却塔、貯水タンクが見えた。病院の裏側は陰気で落ち着く。
ここがいい
なにがいいのかと言うと、楳図かずおさんの恐怖マンガを読むのに。
この少し陰気な雰囲気、「ママがこわい」「ヘビ女」「赤んぼ少女」実に怖かった。
この歯医者さん、なぜか楳図かずおさんのマンガが充実していた。
たぶん、定番の「サザエさん」や「いじわるばあさん」もあったかと思うが、
ここで読むのは、決まって「こわいシリーズ」だった。
歯医者さんいやだなぁ~と少し沈んだ気持ちでこわいマンガを読む。
そのこわい気持ちのまま、順番がくる。
帰りには、唇はゴムのようになり感覚がなくなり、乳歯を抜いた後の血の味までする…
感覚がないことをいいことに唇を咬んだりしていると、次の日には腫れ上がって、たらこ唇になってしまう。
こんな雨の日は、歯医者さんに行くには最高のシチュエーションだと思っていた。
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画のコピーライト
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